
季節の変わり目やクローゼットの整理をしていると、「もう着ない服」が山のように出てくることがあります。
しかし、手放すその一枚一枚には、実は環境への影響が隠されています。
何気なくゴミ袋に入れてしまえば簡単ですが、それが焼却されるまでに排出される二酸化炭素や化学物質の量を想像したことがあるでしょうか。
今、世界では「サステナブルファッション」という言葉が注目を集めています。
これは、服を作る・着る・手放すというライフサイクル全体で環境に配慮し、資源を大切にする考え方です。
本記事では、不要になった衣類がどこへ行くのか、そして私たちができるリサイクルの方法と注意点を、世界的な動きとともに紹介します。
世界で増え続ける衣類廃棄の現状
世界では、毎年およそ「9200万トン」もの衣類が廃棄されているといわれています。
そのうち再利用やリサイクルされるのは、わずか10%未満。
残りの大部分は焼却や埋め立て処理され、膨大な量の二酸化炭素を排出しています。
原因のひとつが、ファストファッションの拡大です。
安価でトレンド性の高い衣服が短いスパンで入れ替わり、平均的な着用回数は過去20年で半減したとも言われています。
大量生産・大量消費・大量廃棄というサイクルが進む中で、衣類の寿命は短くなり、まだ着られる服がごみとして処分されてしまう現実があります。
さらに、ポリエステルなどの化学繊維が洗濯や焼却によってマイクロプラスチックとして環境中に流出し、海洋汚染の一因にもなっています。
「服を捨てる」という行為が、想像以上に地球に負担をかけているのです。
広がる衣類リサイクルの取り組み
こうした状況を受けて、世界中のアパレル企業が衣類の回収と再利用に取り組んでいます。
中でもユニクロの「RE.UNIQLO」やGUの「GUリサイクル活動」は、日本国内外で広く知られています。
これらのプログラムでは、不要になった服を店舗で回収し、再資源化したり、難民支援や災害被災地への寄贈に活用したりしています。
H&Mも世界規模で回収活動を行っており、自社製品だけでなく他ブランドの衣類も対象にしています。
回収された服は「再販売できるもの」「繊維として再利用できるもの」「断熱材などに再加工されるもの」に仕分けされ、可能な限り廃棄を減らしています。
このように、企業がリサイクルの仕組みを整えることで、消費者が“気軽にエコ活動に参加できる”環境が生まれています。
服を買うことと同じように、「手放すこと」にも責任を持つ。
それがこれからのファッションに求められる姿勢です。
衣類リサイクルの仕組みと再生の流れ
回収された衣類は、まず状態によってリユース(再使用)とリサイクル(再資源化)に分けられます。
まだ着られる状態のものはクリーニングの後、中古市場や寄付団体を通じて再び誰かの手に渡ります。
一方、傷みが激しく着用が難しい衣類は、素材ごとに分解され、新しい製品の原料になります。
コットン製の衣類は再び糸に戻されてタオルやTシャツに、化学繊維は化学分解によって再びポリエステル樹脂へと再生されます。
この「ケミカルリサイクル」と呼ばれる技術は、繊維を原料レベルに戻すことができるため、資源循環の可能性を大きく広げています。
さらに、工業用ウエス(清掃布)や自動車の内装材、断熱材など、衣類は形を変えて新たな命を得ることもあります。
一度役目を終えた服が、別の製品として再び社会に戻っていく──これが衣類リサイクルの本質です。
衣類をリサイクルに出す前に気をつけたいこと

衣類をリサイクルに出す際には、いくつかの基本的なルールがあります。
まず大切なのは、清潔な状態で出すこと。
汚れや臭いが残ったままでは再利用が難しく、他の衣類を傷める原因にもなります。
洗濯を済ませ、しっかり乾かしてから袋に入れるのがマナーです。
また、金属の装飾やボタン、ベルトバックルなどは、可能であれば取り外しておくとリサイクル工程がスムーズになります。
これらは機械の故障につながることがあるため、事前のひと手間が重要です。
さらに、ブランドごとに回収対象が異なる点にも注意が必要です。
ユニクロやGUは主に自社製品を対象としていますが、H&Mのように全ブランドを受け入れている企業もあります。
持ち込み前に公式サイトや店舗で確認しておくと安心です。
家庭でできる衣類の再利用アイデア
衣類のリサイクルは、何も企業に任せるだけではありません。
家庭の中でも、小さな工夫で“もう一度活かす”ことができます。
例えば、古くなったTシャツを切って掃除用のウエスにしたり、デニムをリメイクしてエコバッグに変えるのもひとつの方法です。
最近では「アップサイクル」と呼ばれる動きが広まり、古着を新しいデザインに生まれ変わらせる人も増えています。
SNSでは、使わなくなった服をリメイクして再利用する投稿が数多く見られ、エコとファッションの両立が新しいトレンドになりつつあります。
また、サイズが合わなくなった子ども服や着用回数の少ない服は、フリマアプリやチャリティ団体を通じて誰かのもとへ。
“捨てる”のではなく、“つなげる”という意識が、持続可能な社会の基盤を支えています。
まとめ:服を「捨てる」から「循環させる」時代へ

私たちが何気なく手放す1枚の服も、リサイクルやリユースを通じて新たな命を吹き込むことができます。
ファッションは「消費」から「循環」へ──。
世界では今、そんな価値観の変化が始まっています。
企業によるリサイクルプログラム、テクノロジーによる再生技術、そして消費者一人ひとりの小さな意識。
それらがつながることで、衣類の未来はもっと持続可能なものへと変わっていくでしょう。
今日、クローゼットを開いたとき、「これはもう着ない」と思った服があったら、捨てる前に考えてみてください。
その一枚が、新しい誰かのもとで、もう一度輝く可能性を秘めているのです。

